相続税の非課税枠について
1 すべての財産に相続税がかかるわけではない
相続税は、被相続人が所有していたすべての財産に無条件にかかるわけではありません。
そもそも相続税の課税対象にならない財産もありますし、基礎控除をはじめ、各種の控除や特例制度の利用によって相続税がかからなくなる場合があります。
相続税申告を行う場合はもちろん、生前対策を行うにあたってもこれらを考慮しておかなければなりません。
今回は、相続税の非課税枠について解説します。
2 相続税が非課税となる場合
相続税がかからない場合は次のとおりです。
・相続税の非課税財産がある場合
・相続税を計算する際に使う控除・特例制度がある場合
非課税財産は次項で解説する特定の財産のことで、そもそも相続税の課税対象にならない財産です。
また、相続税の控除・特例制度は、課税対象となる財産の額や相続税額から一定額を差し引ける制度になります。
相続税の基礎控除もこれに含まれます。
3 相続税の非課税財産
最初に、相続税の非課税財産からご説明します。
相続税がかからない非課税財産は、相続税法で詳細に定められています。
具体的には次の通りです。
・墓地・仏壇など日常礼拝の対象となる財産
・生命保険金等の非課税枠
・死亡退職金等の非課税枠
・国・地方公共団体・公益を目的とする事業を行う特定の法人へ寄付した財産
・公共事業用の財産
・心身障害者救済制度の給付金を受ける権利
・個人経営の幼稚園事業等の財産
・皇嗣が受ける物 など
参考リンク:国税庁・相続税がかからない財産
これらの非課税財産のうち、特に注意していただきたい3点について解説します。
⑴ 墓地・仏壇などでも骨董品は課税対象
墓地・墓石・仏壇・仏具などで非課税財産となるのは、日常礼拝のために必要であると明らかに認められるものに限ります。
投資や趣味、売買の対象であれば、相続財産として相続税の課税対象になります。
また、相続開始日までに支払いが済んでいるものでなければ非課税財産として認められない点にも注意が必要です。
ローンで購入し、相続開始日時点で残高がある場合には非課税財産にならず、さらにそのローン残高は債務控除の対象になりません。
もう1つ判断を誤りやすい点として、相続が発生した後に、遺族が相続財産から購入した墓地などは非課税財産にはなりません。
被相続人が所有していた墓地などを相続したわけではないからです。
ご自分の墓地などを購入する予定がある場合には、生前に現金で購入しておきましょう。
購入した墓地などは所有したままお亡くなりになっても、非課税財産であるため相続税はかかりません。
さらに現金で購入したということは、その分、相続財産が減るため、相続税の節税に繋がるからです。
なお、購入の際、被相続人名義の領収証をいただいておくことを忘れないでください。
⑵ 死亡保険金等・死亡退職金等の非課税枠
被相続人の死亡保険金や死亡退職金は、相続後の遺族の生活を守るためのものであることから、次のように非課税枠が設けられています。
500万円×法定相続人の数=非課税枠
法定相続人の数には相続放棄した人も含めてカウントします。
仮に、死亡保険金の受取人として指定されたのが相続人1人だけであったとしても、非課税枠は法定相続人の数に応じた額が適用されます。
ただし、非課税枠が適用されるのは財産を相続する相続人のみとなります。
仮に相続放棄した人が死亡保険金を受け取ったとしても、相続放棄した人は相続人ではないため非課税枠はなく、受取額全額に対して相続税が課されます。
よって、死亡保険金の非課税枠を利用した相続税対策では、受取人の設定が重要になります。
⑶ 寄付が非課税となる公益法人は限定される
「国・地方公共団体・公益を目的とする事業を行う特定の法人へ寄付した財産」のうち、公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄付する場合についてです。
世の中には多くの公益法人があります。
寄付という行為は同じでも、寄付する先によっては非課税財産の対象にならない場合があります。
4 相続税の各種控除・特例制度
財産自体に相続税がかからない非課税財産とは別に、それ以外の財産であっても、各種の控除や特例を活用することで、非課税財産に近い効果を得ることができます。
控除と特例には、財産の金額を減らすことができる制度と、相続税額自体を減らすことができる制度の2とおりがあります。
⑴ 相続財産の金額を減らす制度
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、被相続人が居住用や事業用に使用していた土地が一定要件に該当する場合には、その評価額を最大で8割減額することができる制度です。
つまり、1億円の土地が2000万円になるということであり、利用することができれば非常に大きな節税効果があります。
参考リンク:国税庁・相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
基礎控除
すべての相続において、どの相続人にも適用される控除額であり、適用要件はありません。
次の算式により計算された金額を、相続税の対象になる財産の総額から差し引きます。
差し引いた金額が0円以下になる場合には相続税は非課税となり、申告も不要です。
3000万円+(600万円×法定相続人の数)=基礎控除額
⑵ 相続税額を減らす制度
障害者控除
障害者の相続人については、85歳に達するまでの年齢に10万円または20万円を乗じた金額が、障害者控除として相続税額から差し引かれます。
参考リンク:国税庁・障害者の税額控除
未成年者控除
未成年の相続人については、18歳(令和4年3月31日以前の相続または遺贈については20歳)に達するまでの年齢に10万円を乗じた金額が、未成年者控除として相続税額から差し引かれます。
参考リンク:国税庁・未成年者の税額控除
相次相続控除
前回の相続から10年以内に次の相続が発生した場合には、度重なる税負担を軽減するために、一次相続の際に納めた相続税額のうち一定額が二次相続の相続税額から差し引かれます。
参考リンク:国税庁・相次相続控除
配偶者に対する相続税額の軽減
配偶者の相続人については、1億6000万円または配偶者の法定相続分のいずれか大きい方の金額までの相続については、相続税がかかりません。
参考リンク:国税庁・配偶者の税額の軽減
5 被相続人が生前にできる相続税対策
このように相続税は、非課税財産や控除・特例を利用することで、多額の節税を行うことができます。
何の対策もしなければ、頑張って貯め続けた財産に相続税が課されて少なくはない額を納めなければならないため、生前の相続税対策は非常に重要です。
相続税と同様に、贈与税にも非課税枠があるため、それも十分に活用することがカギになります。
生前の相続税対策を検討される場合、様々な方法の中から適した方法を選択することが必要ですので、まずは税理士へご相談ください。
今現在、非課税財産を所有していない、または控除や特例の適用要件に該当していない場合でも、生前の対策によって、非課税に近付けるよう対応することは十分可能です。
非課税財産や控除・特例等の知識を持ち、適切な相続税対策を行うことで、相続人が負担する相続税を減らすことができれば、円満な相続へと繋がっていきます。
相続放棄で失敗した事例 事業承継は誰に相談すべき?相談先はどこがよいか